札幌地方裁判所 昭和43年(わ)202号 判決 1968年12月19日
本店所在地
札幌市白石町平和通六丁目南三六番地
日邦建設工業株式会社
右代表者代表取締役
山石祐一
本籍
札幌市南五条西七丁目四番地
住居
同市白石町平和通六丁目四〇番地
会社役員
山石祐一
大正一一年一月一日生
事件名
法人税法違反
出席検察官
福田恒二
同
弁護人 馬見州一
主文
1 被告人日邦建設工業株式会社を罰金五〇〇万円に、同山石祐一を罰金一五〇万円に各処する。
2 被告人山石祐一において右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
3 訴訟費用は、これを二分し、その一づつを被告人両名の各負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人日邦建設工業株式会社は、札幌市白石町平和通六丁目南三六番地に本店を置き、昭和四〇年一月までは札幌市南五条西七丁目四番地、同四二年三月二四日までは同市白石町本通七九一番地土木建築請負等を営業目的とする資本金二〇〇〇万円(昭和四一年一一月六日以前は一三〇〇万円)の株式会社で、被告人山石祐一は、同株式会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人山石は被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて、同被告会社経理課長大浦竹治と共謀のうえいずれも架空工事原価を計上し、あるいは収入の一部を除外しこれを架空名義の簿外預金として預け入れるなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、
1 昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日までの事業年度においては、実際の所得金額が二三〇九万二〇〇〇円であつたのにかかわらず、同年五月三一日ころ所轄の札幌東税務署(札幌市南一九条西九丁目所在)において、同署長に対し、所得金額が四七六万三九〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、よつて被告会社の右事業年度における正規の法人税額八二六万六三〇〇円と右申告税額一四九万四〇〇〇円との差額六七七万二三〇〇円を免れた。
2 昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日までの事業年度においては、実際の所得金額が四〇八七万三〇〇〇円であつたのにかかわらず、同年五月二七日ころ、所轄の前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六一三万七六〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、よつて被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三九一万五一〇〇円と右申告税額一七六万七六八〇円との差額一二一四万七四二〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
1 被告人山石祐一の当公判廷における供述
2 同被告人作成の上申書二通(うち一通は経理課長大浦竹治と連名のもの)
3 同被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一三通
4 同被告人の検察官に対する供述調書
5 押収してある法人税決定決議書綴(昭和四三年押第一二八号の一)
6 大浦竹治の大蔵事務官に対する質問てん末書二一通
7 同人検察官に対する供述調書
8 次の者の大蔵事務官に対する各質問てん末書
佐藤信之(二通)、楠信治、中野義男、石金弘也、寺町弘市、納田順次郎、竹田勲、阿部秀雄、持丸猛也、田畑道雄、宮内光夫、八木橋富士義
9 大蔵事務官作成の脱税額計算書二通
10 被告会社に対する登記簿謄本
(法令の適用)
被告人山石祐一の判示各所為について 法人税法一五九条一項、刑法六〇条
同日邦建設工業株式会社の同右について 同右のほか、さらに法人税法一六四条一項
併合罪加重について 刑法四五条前段、四八条二項
換刑処分について 同法一八条
訴訟費用の負担について 刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の理由)
本件は昭和四〇年、同四一年の両事業年度において合計約一九〇〇万円に近いほ脱をした事犯である。そのほか脱金額がこの種事犯のなかでもかなり高額に達しており、また発覚し難い労務費等を架空計上するなどの方法による計画的な違反行為である点などにおいて、犯情は相当に重いと言える。
しかし、一方、本件のほ脱は、会社経営上現状では事実上必要な簿外交際費の捻出、労務者に対する簿外労務費の支払、会社の自己資本の蓄積等の理由のもとになされていた面が強いと証拠上は認められ、ほ脱により被告人山石が個人的利殖等を企てていたものとは認め難い。そのため、被告人山石が当公判廷において、ほ脱の主たる動機として土木建築業界においては少しの経営上のミスで多額の損失を生じ会社経営上の危険を招くおそれが常につきまとつているため、会社経営の資金面における安定をはかり企業の防衛を考えたと述べる点も無下に否定し切れないものがある。もとより、かりにそうだとしても、かなりの経営規模をもつ本件のような企業の経営者が、右のような資金の必要があるからと言つて、単純安直に、違法行為であることを充分承知しながら、なおほ脱行為をしたことについては、企業経営者が社会に対して負うべき責任を忘れ去つた態度であるとの非難を受けるべきことは当然である。ただ、それにしても、企業を利用して私利をむさぼりはじるところのない事犯と、まがりなりにも従業員をかかえた企業の安定をはかるためにはほ脱行為に出たと認められる事犯とは、やはり区別して考えるべき点のあることも否定できないと考える。勿論、後者のようなほ脱事犯であつても、これがひそかに行なわれる場合、税収上の幣害には差異はなく、また誠実な他の納税者との間に生じる不公平感が、ひいては他のほ脱事犯を誘発して止まないのも社会の実情であつて、同種事犯の続発防止という観点からは量刑上慎重な配慮をすることが肝要であろう。しかし、慎重な配慮を要するということは単に懲役刑に処すればよいというものでもない。ほ脱事犯のうち、会社経営に名を籍りて私的利得行為に終始したものはしばらく別として、ともかくも会社経営上の経済活動が勢いのおもむくまま遂に違法行為に及んだ程度にすぎないと認めうるものについては、懲役刑に処するよりはむしろ高額の罰金刑に処し、右のようなほ脱行為が一時的には利得をもたらしたように見えながら長い目で見れば経済ベースに合致しない行為であることを感得させることが有効な場合が多いと思われる。そして、ほ脱事犯の続発防止は、一部の起訴されるほ脱事件だけについて懲役刑を科することによつてではなく、ほ脱をしても発覚せずにはすまないとの実感を世間におしひろめるような捜査上の実績をあげることによつてよりよく達せられるものと考えられる。
本件については以上述べた諸点のほか被告会社が本件発覚後、加算税等を全額納入し、また今後の会社経理を改善すべくすでに措置していると認められること、その他諸般の実情を考慮し主文のとおり量刑した。
そこで、主文のとおり判決する。
(裁判官 秋山規雄)